「プエブラ=パナマ計画」と中米-グァテマラの先住民族

グァテマラの社会発展と生物多様性の重要性(3)

4.1.2 征服と植民地化

 この地域の生態的基盤はスペインによる植民地化の基礎となった。スペイン人は先住民族グループが培った農業技術と豊かな自然を利用したが、これにより自然と先住民族の略奪に向けた急速に体制を形成することができ、その結果海外市場向けの生産を行う経済体制が確立されたのである。この植民地体制は次のような点において生物多様性に著しい影響を与えた。

― 地域の自然資源の選択的採取。主要にはそれまでヨーロッパ人には知られていなかった、カカオ、インディゴやエンジムシ(染料の洋紅の原料)を輸出用に採取した。メキシコやペルーと違い、希少金属を欠いていたからである。

―戦争自体や強制労働、住民が免疫をもっていなかった新たにもたらされた病気、そして一般的には食料消費パターンと食べ物の変化による住民の絶滅。

―それまでこの地域では知られていなかった数多くの種の動植物が世界各地からもたられた(小麦、エン麦、サトウキビ、バナナ、羊、牛、馬、豚、鶏)。これらはすべて新世界で征服者たちの必要を満たすためのものだった。

―新しい作物を大規模に生産するため、とりわけ穀物生産と牧畜によってもたらされた生態系の著しい変化。高地では小麦の生産と羊の放牧のために広範囲にわたって森林が伐採された(Recinos, A. 1967年によれば、クチュマタン山脈では17世紀は2万頭にも上る羊の群がいた)。

―とりわけ宗教による文化的征服はコスモビジョン(宇宙観)の多様な表現を破壊し、それに伴い食料に、薬に、衣服に、またその他のさまざまな用途にとって重要な種の多くが消滅または使われなくなった。新たにもたらされた種も人々の物質的・精神的生活を変容させた。植民地時代にはハゲイトウやアマランサスの栽培が、異教徒の習慣と結びついていると考えられたために禁止されるに至った。

―生産の異種混淆性と多様性の基盤が変容した。なぜなら、商品の交換価値の考え方が導入されると、征服者たちはより収益性の高い産物で儲けようと、より少ない数の種を活用することに専心したからである。これは先住民の生産基盤にも影響をあたえた。「インディゴの栽培がめざましく発展し、その収穫が安定しているのを見て、小規模農家はフリホール(豆)、小麦、カカオの生産を止め染料の栽培に専念することを決めた。これにより穀物生産の低下が加速化された。」(Solano, F.、1977年)。

―新しい民族グループの出現によるヒトの多様性における変化。例えば、メスティソ(スペイン人と先住民の混淆)、自らをクリオーリョと呼ぶヨーロッパ人の子孫、ドミニコ会修道士がバハ・ベラパスのサン・ヘロニモ谷でサトウキビの栽培を推進するために連れてきた黒人など。ムラートや他の少数派集団は、最終的には、地元の集団とともにヒトの生物多様性を構成することになる、こうして次のようなグァテマラの多言語・多文化の特徴ができあがったのである。カステリャーノ(スペイン系)、キチェ、マム、カクチケル、ケクチ、ポコムチ、カンホバル、ツトゥヒル、チュフ、イシル、ポコマン、ハカテルコ(ポプティ)、チョルティ、アワカテコ、サカプルテコ、アチ、ウスパンテコ、モパン、イツァ、シパカペンセ、テクティテコ、シンカ、ガリフナ(Proyecto Linguistico Francisco Marroquin"Datos del Censo de poblacion de l981"より)。

植民地化の徹底さにもかかわらず、先住民族は文化的抵抗のメカニズムを発展させ、それにより代々改良してきた作物をはじめとして、土着の数多くの種を保存し、利用し続けることができた。この状況があったからこそ、数多くの主要な自生植物、とくにトウモコロシ、フリホール、ウリ、自生の野菜や野生動植物の栽培・飼育を維持することができたのである。

4.1.3 独立と自由主義体制

 スペインからの独立後、グァテマラは基本的に洋紅の輸出を基礎した農産物輸出経済モデルを強化していった。これは前世紀(19世紀)の終わりまで好調であったが、その後合成染料の工業的生産に取って代わられた。その当時コーヒー栽培が出現して国の経済基盤が大きく変化した。コーヒー栽培が推進され、そのために先住民族共同体はその土地から追い立てられ、この結果ラティフンディオ―ミ二フンディオ現象が生まれた。それは最終的には生物多様性の減少につながるさまざまな社会的事象を引き起こした。それらは要約すると次のようなものである。

― 農業、とくにコーヒー栽培への外国資本の導入によりボカコスタ地域とベラパス地域の生態系基盤が変化した。

―農民はコーヒー農園で働かされるようになり、それに伴って自身の畑を放棄せざるを得なくなった結果、その土地の貴重な植物遺伝子資源が失われた。

―農民が土地から追い立てられたことによってミニフンディオが生まれ、資源をめぐる大きな社会的圧力が生じた。この結果基礎食料生産のために森林を利用することすることを余儀なくされ、20世紀のグァテマラ社会を特徴付ける土地問題が生まれたのである。

4.1.4 農業近代化時代

 今世紀(20世紀)以降、コーヒー、バナナ、家畜を中心としたグァテマラの輸出農業モデルが経済活動の中核として完全に確立され、同時に、資本財の供給に関して先進工業国への依存が高まった。これに伴い社会分化が拡大し社会紛争が生じたが、資本主義国は所得を向上させそれによって豊かさを高めるために生産性を上げるという古典的手法による農業の近代化を通じて、これを緩和しようとしたのである。

 このような考え方の開発は農業科学技術の発展を促進した。この現象は今世紀中葉にいわゆる「緑の革命」とともに始まった。「緑の革命」は動植物の品種改良、化学肥料の使用、害虫や病気の抑制、機械化、技術者・専門家の養成、そして貧しい国々にとっては一般的に科学技術の開発・普及にとりくむための国家機構の強化を通じて農牧業の生産性向上をもたらしたからである。中米地域の他の国々と同様、グァテマラもいわゆる「輸入代替」を推進するために工業化の道を模索した。

 農業が人工的なものになるにつれ、先進工業諸国ではコストがかかる技術を導入する経済力があるがために農業生産が増大した。しかし、第三世界諸国では生産性は上がらず、貧困も解決せず、その反対に外国の技術への依存、対外債務、国家機構の肥大化、そして貧困が昂進したのである。

 農業の近代化が生物多様性に与えた主要な影響は次の通りである。

1.サトウキビ、綿花、コーヒー、天然ゴムの栽培および放牧のために広大な土地があてがわれ、それに伴ってさまざまな地域、とくに南部海岸地方の生物多様性が失われるか減少した

2.農業に過剰に手が加えられることによって、生物多様性に有害な影響を及ぼす除草剤、殺虫剤、化学肥料、機械などが投入されるようになり、それに伴いすでによく知られているように土壌、水、空気、動植物の汚染がもたらされた。嘆かわしいことにグァテマラの農業におけるDDTの濫用はよく知られているが、DDTが生物の体内に蓄積された結果、多く動植物の種が絶滅、または絶滅の危機にある。

3.土地問題が依然として解決されていないために、農業生産が活発でない地域で農業フロンティアが拡大されている。この状況は近年、とくに両ベラパス県(アルタ・ベラパス県、バハ・ベラパス県)、ペテン、および高地地帯で顕著になっている。PAFT-Gの報告によれば、グァテマラの森林は一年にサカテペケス県の面積に相当する600km2を超える割で消失している。

4.生産性の高い「改良」品種を探すために遺伝資源が同質化されたことにより、土地に適応していたさまざまな品種が駆逐されるに至った。これはグァテマラで栽培されている作物の多様性に影響を及ぼす主要な問題の一つとなっている。皮肉にもこうした品種改良は食料不足問題を解決することはできていない。

5.グァテマラの遺伝資源の採取は外国勢力によって行われているが、何世代にもわたって努力して種の改良に努めてきたグァテマラの人々の利益をかえりみることなく、原材料を搾取し続けている。グァテマラで採取された遺伝資源から改良された品種は、企業によってしかるべき手続きにのっとって特許化され、そのコストの高さゆえに、種の保存に何らかの形で寄与してきたはずの農民には手が出ないものとなってしまう

6.生息地の消失・減少、また外国の動植物の導入によって引き起こされた遺伝子の消失は、土着の動植物の遺伝子の質の低下を招く。国連食糧農業機関(FAO)によれば、遺伝子消失は原始的農業、時代遅れの商業的耕作、その価値が知られていないか忘れられている、遺伝子操作されていない動植物の種、実際に利用されている動植物の野生の直系の先祖または親類、および土地に適応した動物の種に影響を与える。農業セクターの企業は農民が改良種の代わりに土着の品種を耕作し続けることを遅れていると捉えている。

 一般に、グァテマラで追求されてきた開発モデルは、高コストの外国からの技術を導入することを通じて生産性を高めることに重点を置いてきたが、これは所期の使命を達成することができなかったばかりでなく、国内の遺伝子基盤に多大な影響を与えた。しかし、FAO(1988年)が指摘するように、懸念されるのは近代化それ自体ではなく、現実に進む近代化の過程が遺伝子財産を保存する努力よりも速いスピードでそれを枯渇させてしまうように思えるという事実である。

4.1.5 近年〜構造調整と経済のグローバル化

 過去50年、一部の少数者の福利のみに利するような開発モデルは、貧困、対外債務および社会紛争の増大を引き起こし、自然資源を破壊した。この状況は貿易条件の悪化、対外債務、産品の国際価格の変動、そして技術、経済、政治における依存という点で国際経済体制の影響を強く受けている。

 これはまた国家機構の極端かつ欠陥をもった肥大化を生んだ。こうした国家は社会問題を解決し生物多様性を保存するための事業を実施する長期的な政策を策定するには脆弱である。主要な構造的問題を解決する政治的・経済的能力がほとんどないことがそのひとつの証左である。この状況は、これまで充分に利用されてこなかった、もしくは純粋に採掘するだけであった生物資源という比較優位を利用するための予算を策定し実施に移すことを不可能にするような科学技術の深刻な危機とともにさらに悪化する。

表4 構造調整政策の生物多様性への影響

 [調整政策の方法]

a)公共部門における支出予算および資本の縮小

b)国内貸付の減少

c)通貨供給拡大の制限

d)貿易・通商政策の方法

e)生産ファクターの流動性の刺激

[悪影響のプロセスまたは新しいプロセス]

・貴重な種の不法採取を目的とした保護地域への侵入

・保護地域の農地への転化、生態的に貴重な種の略奪と喪失

・産業廃棄物の不適切な投棄

・土壌、水、大気の汚染および動植物・微生物の種の喪失

・否定的影響を考慮しないプロジェクトの実施

・貴重な生態系の破壊および複合的な破壊のプロセス

・保健・教育への貧困層のアクセスの悪化、移住労働、所得低下、失業、インフレーション。貧困の増大および自然資源、とくに農地以外の土地に対する負荷の増大。文化的剥奪。

・非伝統的輸出作物の作付け拡大。一般消費用食糧を供給する農牧畜部門の排除。

・農業フロンティアの拡大、牧畜の拡大および適性を考慮しない製材を目的とした活動による森林への負荷

・壊れやすい生態系および貴重な種の喪失の危険性のある生態系の破壊

・環境調査、保全、保護のための財政支援の削減。生物資源に関する研究・知識の欠如。このためその利用が阻害されている。

(BID/FCE/PNUMA(1991年)、"Nuestra propia agenda sobre desarrollo y medio ambiente"中のモデルをもとに作成。)

4.2 大いなる矛盾:貧しい国の富

 クロッペンバーグとクライマン(Kloppenburg y Kleinman)(FAO、1987年からの引用)の研究によると、作物の種の利用とその原産地には密接な関係がある。それによれば主要な原産地は現在発展途上国または第三世界として知られている地域に存在しているというのが定説になっている。先進工業国は一般に社会的有用性のある遺伝資源の多様性に乏しく、つまりこの点においては豊かな国が貧しい国に依存していることになる。

 遺伝資源の大原産地のそれぞれで現在栽培されている主要な植物を比較してみると、貧しい地域が世界の生産に対して胚原質の一大供給源になっている一方、先進工業国はほとんど供給していないことが分かっている。例えば、世界の農業生産の35.6%はラテンアメリカ原産の植物(トウモロコシ、ジャガイモ、トマト、唐辛子、パイナップル、落花生、カボチャ、キャッサバ、カカオ、パパイヤ)を使っており、一方ラテンアメリカ地域では他の地域が原産の植物を栽培している。主要にはインドシナ原産のもの(米、バナナ、サトウキビ、マンゴー)が12.5%、中国・日本原産のものが12.5%(米、大豆、柑橘類、お茶、桃)、中央アジア原産のもの(小麦、野菜、落葉性の果樹)が13.3%となっている。他方、北米、ヨーロッパ・シベリア、およびオーストラリア地域が供給するものは世界の農業生産においては事実上皆無である。

(表5〜略)

 皮肉なことに、主だった遺伝子銀行は先進工業国に存在している。こうした諸国はその経済力をもって遺伝子を操作し、生産性向上もしくは生産阻害要因に対する抵抗力・耐性を強化するという特定の特性をもったいわゆる改良品種の開発を成し遂げた。しかるべき手続きに則って特許化された品種は、その遺伝資源の開発と保存に何代にもわたって寄与してきた発展途上国の農民には手が届かない。FAOによれば、伝統医薬で使われてきた植物から作られた医薬品の世界市場における価値は430億ドルを超え、その原料の特定に寄与した先住民族にはそのうちのわずか0.001%しか還元されない

4.3 社会発展:生物多様性の喪失と保全

 E.ウィルソン(Wilson, E. 1989年)によれば、人類は地球の生物多様性が最も富んでいた時期に出現したが、社会の発展の結果、現在、中生代以来最も生物多様性が低い状態に至っており、生物相に関する研究と評価がないために、予測不能かつ有害な結果をもたらす危機を生みだしている。人間の出現の前に消滅した種も数多くあるのは確かであるが、人間の活動が多くの生態系と種の破壊を加速したことは事実である。その多くは知られることさえなかった、すなわち、人間のためであれ自然一般のためであれ、その有用性を知られるに至らなかったものである。FAOによると、いくつの種が地球上から消えたか(あるいは生まれたか)は誰にも分からないが、一方で学名が付けられた種はおそらく全体の10%にも満たないという。

 近年における生物多様性の喪失は危険な状況にあるが、その原因はラテンアメリカ地域がとってきた開発様式に求めなければならない。FAO(1987年)によれば生育環境の破壊と大規模農業によって推進された同質化が原因で「今世紀初めから農作物における遺伝子多様性のおよそ75%が失われた」。今世紀になるまで、農民たちは作物と家畜の種の夥しい多様性を生み出し、維持してきた。しかし、近代的栽培プログラムにより、および水、肥料、殺虫剤などの外部からの投入物をより多く要求する特定の少数品種の作付けを通じた生産性向上によって、この多様性は急速に失われつつある。同様の傾向によって森林の多様な生態系が生産性の高い樹木を単作する植林に変容している。その一部は自然の森林よりもむしろトウモロコシの単一栽培に似ている。

 これに加え、高生産性の品種が大規模に推進され取り入れられた結果、自生の作物の遺伝資源の喪失が進み、農民は自生種の栽培を放棄し土着の品種を交雑種に替えることを余儀なくされている。農民にとっての生産合理性を重要視しなかったために、近代化の試みもまた一部の伝統的農業システムの消滅を引き起こしたのである。

 社会発展は数多くの植物、動物、微生物の種を活用することの上に成り立っているにもかかわらず、現在では産業や市場がより収益性が高いと考える種がもつ交換価値に誘因されて少数の種しか使わない傾向がある。大都市圏の人々の食生活はますます多様性が少なくなる傾向にあり、その結果、グァテマラの多くの地域で起こっているように、ミニフンディオの農家を中心に多くの農民が農業への関心を失いつつある。一方、合成繊維を使う製品によって自然素材を使う数多くの手工芸品が駆逐された。この状況はそうした土着の資源とその性質に関する知識の放棄・喪失となって現れている。

 近代的な製薬産業が生産する医薬品を使うことも間接的に生物多様性の喪失につながっており、医薬品として使う数多くの種が駆逐されていることに現れている。F. ロンキージョ(Ronquillo, F.、 1988年)の研究によれば、食用および医薬品用として重要と見られる69の植物のうち、国内の半乾燥地帯のある共同体では今日ではわずか6種類しか栽培されていない。

翻訳:藤岡美恵子

<注>表の一部は割愛した。