「プエブラ=パナマ計画」と中米-グァテマラの先住民族

.

先住民族カンクン宣言

2003年9月12日

メキシコ国キンタナ・ロー州カンクン、第5回世界貿易機関(WTO)閣僚会議に際して

.

.

2003年9月10−14日のメキシコ・カンクンにおける第5回WTO閣僚会議に集ったわれわれ先住民族の国際的代表は、メキシコの先住民族とりわけキンタナ・ローのマヤ系先住民族に対し、われわれを歓迎してくれたことへの深い謝意を表す。

われわれは「カンクン先住民族全国議会宣言」(CNI宣言)において表明されたわが同胞たるメキシコ先住民族の憂慮を共有するものである。われわれはCNI宣言及びその結論・提案と声を一つにする。

われわれはまた、特に韓国人の仲間であるイ・ギョンヘが当地カンクンにて自己を犠牲にしたことを認め、彼の栄誉を称えたい。彼の自殺という行為は、世界中の先住民族農民にもたらしている日々の現実、それはグローバリゼーションと自由貿易がもたらしているものであるが、この現実を深く反映した、威厳に満ちた文化的表現であった。

われわれはWTO貿易協議がわれわれの家族、コミュニティ、各国に対して与える重大な問題と否定的な影響を強く知らしめるためにカンクンに参集した。

WTOの創設ならびに世銀・IMFの構造調整政策の絶え間ない押し付けに伴い、先住民族であるわれわれはますます困難な状況にある。われわれの権利の犠牲の上に、さらなる権利と特恵が企業に与えられている。われわれの権利である自決権、つまり自由に政治的地位を決定し、経済・社会・文化的発展を自ら追求する権利、またわれわれの土地や資源、先住民族の知識・文化・アイデンティティに対する諸権利は総じて大きく侵害されている。われわれの権利に対するWTO合意による侵害例は、主だったものとして次のとおりである。

多額の補助金で人為的に価格が下げられたアメリカからの安いトウモロコシのダンピングによる、メキシコの何十万というトウモロコシ生産の先住民族の生計喪失。またフィリピンのコルディレラ地域で野菜を栽培する何十万もの先住民族も、野菜の安値輸出によって生計が失われている。

メキシコにおける先住民族の伝統的トウモロコシは遺伝子組み換えトウモロコシによって汚染されており、それは先住民族にとって実に深刻な問題である。これらのすべては、WTO農業協定(AOA)が要求する農作物貿易の自由化ならびに国内生産業者を保護する法律の規制緩和によるものである。

世銀およびIMFの構造調整政策は自由化、民営化と規制緩和のベースとなっている。米国、欧州連合(EU)で資金力のあるアグリビジネス企業や大規模農家に与えられる多額の輸出補助金や国内販売のための支援もまた、先住民族のこの現状をもたらしてきた。

コーヒー商品価格の下落による、グァテマラ、メキシコ、コロンビア、ベトナム等でコーヒー栽培に従事する先住民族ならびに高地に居住する農民の貧困の増大。

フィリピン、インドネシア、パプア・ニューギニア、インド、エクアドル、ガイアナ、ベネズエラ、コロンビア、ナイジェリア、チャド、カメルーン、米国、ロシア他における、鉱物、ガス、石油の多国籍企業と先住民族との間の衝突の増加。またこれらの国での同採掘諸産業の操業による先住民族コミュニティの軍事化及び環境の悪化。

TRIMS(貿易関連投資政策)合意、世銀・IMFによるコンディショナリティ(訳注・当機関から融資等を受ける際に各政府が受入れる条件のこと。条件は政府の役割を縮小させる基本姿勢にのっとっている)、NAFTA(北米自由貿易協定)等地域貿易協定、二国間投資協定、これらに後押しされた投資諸法の自由化により、多国籍企業は容易に各国に参入できるようになっている。

先住民族の土地、領土の軍事化、ならびに先住民族の活動家、リーダー、先住民族を支援する人々の殺人、恣意的逮捕および拘留の多発。同様に先住民族の抵抗を犯罪として扱うケースも大きく増加している。

先住民族の土地におけるインフラ開発の増加、とりわけ大型水力発電ダム、石油・天然ガスのパイプライン、道路の敷設。これらは採掘産業、木材切出し企業、輸出加工区の操業支援を行っている。例えばプエブラ=パナマ計画の下で行われている社会基盤開発は、南部メキシコ6州及びグァテマラの先住民族の儀式を行う地や聖地を破壊してきた。

キノア、アヤウアスカ(メキシコ産黄豆)、マカ、サングレ・デ・ドラゴ、オオディア(イチイ科諸植物)等、先住民族が育み利用してきた薬草や種(とその知識)の特許化。これら生物に関する著作権や生活様式の特許はTRIPS合意によって後押しされている。

先住民族コミュニティでの病気であり当該コミュニティの医療サービスを低下させている結核、マラリア、エイズ等の病気に対する医薬品の急激な価格上昇。安価な薬にはアクセスできていない。

数カ国における水、電力など公共サービスの民営化。これらの国ではボリビアで先住民族が主導したような大規模ストライキや抗議行動が行われた。GATS(サービスに関する一般協定)は環境サービス(衛生、自然並びに景観の保護)、金融サービス、観光その他にその内容を拡充しているが、これは民営化を見越したものであった。

先住民族の権利を保護する条約等の国際文書、憲法、国内の諸法律、政策のなし崩し的不履行。

このような事態の展開をわれわれは警戒している。世界におけるこの状況は先住民族のサブシステンスを足元から揺り動かし、食糧の安全を脅かし、貧困を悪化させ、土地、文化、アイデンティティの喪失をもたらしてきた。われわれWTO第5回閣僚会議のイベント中にカンクンに集った先住民族の代表は、各国政府に以下のとおり要請する。

1.先住民族の土地及び資源に関する諸権利、および民族自決の権利を認め、保護すること。人権に基づく思考と行動の枠組みによって貿易、投資、開発、貧困撲滅政策・プログラムを実行せねばならない。

TRIMS協定、各国の投資関連法の自由化をもたらす世銀やIMFのコンディショナリティ、先住民族よりも企業に保護と権利を与えている地域貿易協定や二国間投資協定、これら投資自由化の諸規定は改められるべきである。

これらによって先住民族は容易にその土地から立ち退かされ、土地、水、資源と知識が他の者に収用されるからである。軍事化、社会基盤プロジェクト、資源採掘産業、輸出加工区やその他開発スキームのために自らの土地から立ち退かされた先住民族は、その土地に戻り正当な補償が受けられるべきである。各国政府によって国際人権及び環境基準が保障され、この両者が貿易協定の形成及び実施方法を指導しなければならない。

また先住民族が、そのコミュニティにプロジェクトがもたらされる前に、自由にかつ事前に情報にアクセスできるようにすること。伝統的知識、並びに土地利用及び土地所有に関する先住民族のシステムや実践を保護する「生物多様性条約」8j及び10c章がWTO協定の枠組みたることが望まれる。さらに先住民族の権利の認知、保護に与する「先住民族の諸権利に関する宣言(草案)」を国連が即時採択するよう、各国政府が働きかけることを求める。

2.生物資源ならびに先住民族の知識に関する生活様式その他知的所有権の特許化をやめること。先住民族が種子、薬効植物、先住民族の知識を統括する権利を持つことを保障せよ。

われわれはTRIPS協定に生活様式の特許を禁止する明確な文言を加えるよう要求する。また企業、個人、あるいは政府であれ、先住民族の薬効植物、種子、知識、さらに先住民族の人体の遺伝子を利用した物質にいたるまでの特許権、特許物の利用またはその要求を取り下げるよう求める。

生物(に関する知識)の窃盗行為をやめ、これら資源が他のものに特許として承認される前に、先住民族が自由かつ前もってその情報を手に入れられるようにせよ。先住民族の知識保護問題はWTOのTRIPS協定で取り扱われるべきではない。その理由はWTOが基本的に仮定している条件は、先住民族の知識体系を支える概念、価値観や倫理と矛盾しているからである。

先住民族の知識は国連の下で最も保護されうるものであり、それゆえわれわれは、いかにして国連が先住民族の知識保護問題に本腰を入れられるか議論すべく、先住民族問題国連常設フォーラムが専門会合を召集するよう主張する。

3.先住民族の健康に対する基本的な権利を確保せよ。公衆衛生を保護するための医薬品へのアクセスを推進する国家の権利は、企業の知的所有権保護という義務に優先されるべきである。製薬・バイオテクノロジー企業から要求されている特許の保護は、公衆衛生と安全を保護するべく制約をうけねばならないし、安価な基本薬の保護と容易なアクセスを確保しなければならない。

健康とは基本的人権であり、先住民族もこの権利を享受できなければならない。各国政府は薬に関して柔軟な使用を認められるべきであり、これはTRIPS協定がドーハTRIPS及び公衆衛生宣言を反映せねばならないということである。

強制的なライセンス取得とそれに伴う輸入の手続きを簡素化、明確化し、かつ貧しい人々に手ごろな価格の必要な医薬品を供給できるように輸出入に伴う不必要な障碍を取り除くべく、TRIPS協定は修正されるべきである。

4.当第5回閣僚会議では新たな課題を交渉してはならない。

われわれは投資、競争、政府調達の際の透明性、貿易の推進等新たな議題を議論することによって別のラウンドが開始、もしくはWTOが拡大することを抑える数カ国の発展途上国の立場を支持する。WTOは投資交渉を続けるべきではなく、むしろ企業に過度の権利を与え、度の過ぎた振る舞いを許している現行の投資に関する諸法、規定を変更すべきである。現行諸法では、政府による人権をベースにした開発を妨げ、環境から見て持続可能な政策が放棄されている。

5.GATS協定の拡大を防ぎ、保健、教育、水、電力、環境サービスの民営化と自由化を止めるべく、既に存在する協定を改正せよ。

環境サービス(公園や景観に関するもの等)の自由化・民営化、また先住民族文化の商業化と増大する国内外の旅行会社による観光産業の独占的支配は中断されるべきである。われわれが自身の土地内で見出される保護地域、公園、森林、水の管理者として認められねばならない。森林、水、生物多様性、エコシステムの運営に際しては先住民族自身の実践が持続できることを要求する。

6.更なる農作物の輸入自由化を促進する農業分野の交渉を中断せよ。米国とEUは自国内のアグリビジネス企業・大規模農家への輸出促進と内国での補助金を思い切って終了させよ。

国家はむしろ食料に関する主権ならびに安全保障を推進、保護するような確たる方策を採用し、米国、EU、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドからの人為的に安い、高い補助金のついた農作物のダンピング及び密輸を中止せねばならない。

先住民族農家が自らの農業体系を保持し、その伝統的な種子を育て増やす権利を保障せよ。国家は貿易に関する諸規定という観点で先住民族の農業体系を捉えてはならない。先住民族の伝統的な生活、食料の権利は認知され保護されねばならず、それゆえこれらの権利を掘り崩す貿易・投資諸法は廃止もしくは適切に改正されるべきである。

7.先住民族コミュニティにおける軍事化を中止し、破壊的産業、プロジェクト、プログラムに対する先住民族の抗議やデモ行為を犯罪とみなすことをやめよ。

先住民族や支援者に対する多くの殺人、恣意的逮捕・拘留、レイプ事件に対しては意義と実効力のある捜査が行われてしかるべきである。正義が犠牲者とその家族に与えられ、犯人はその罪によって裁かれねばならない。

8.アメリカ大陸先住民族の間で何世紀にもわたって存在してきた、持続的な貿易システムを支持し、強化せよ。

アメリカ大陸内の様々な先住民族間に貿易ルートがあり(米国、カナダ、メキシコでは何世紀にもわたってこれが存在する)、今もって貿易は実践されている。国境の軍事化や破壊的行為は先住民族にとってその貿易規模と有用性を大きく制限してきた。先住民族間の貿易は保持され、促進されるべきである。

当第5回WTO閣僚会議に集った各大臣は単に商業的関心のみを代表するのではなく、先住民族を含む国家のすべての成員を代表する責任がある。現存する人権、環境や社会・文化に関する条約や規約は国連システム内で発展してきたが、これが各国家の倫理的義務でないとしても法的義務として遵守させねばならない。人権諸法を含むすべての国際法は国家を拘束する。

先住民族はこれら約款・条約やその法律体系の多くの対象となっている。われわれの権利を無視することも、貿易協定や制度によってその権利遵守を減じたり妥協したりすることも不可能である。先住民族は民族として、そして主体として、われわれのビジョンや伝統と一貫した自身の発展に参加する権利がある。われわれの伝統的決定方法を通じて、自由に情報にアクセスできること、不正や改ざんのないことが確保されねばならない。

国家によってバックアップされた開発は単にわれわれに押し付けられるものであってはならない。民族としてのわれわれの土地、領土や天然資源に対する権利が認知、尊重、遵守されねばならない。

民族としてのわれわれの生存はこの点にかかっているからである。

【訳=福田しのぶ・中野憲志】

..