「先住民族とコモンズ」連続合同学習会第6回報告 2006年9月30日 アイヌ文化センター テーマ: ミレニアム開発目標と先住民族 発題: 藤岡美恵子(IMADRグァテマラプロジェクト) 参考資料: 「先住民族とミレニアム開発目標(MDG)」(ビクトリア・タウリ・コープス)   「これまでの開発に関するグローバル・モデルは間違っていた」   (ニコ・キリアコウ) 記録:高橋 配布資料に基づき、発題者発表後、下記質疑応答を行った。後、発題者より、郭洋春・戸崎純・横山正樹編「環境平和学」法律文化社、2005年(特に「第3章 潜在的能力アプローチの批判的検討」鴨原敦子)を参考文献の一つとして推薦があった。 質疑応答・参加者間の討論: Q: ビクトリア・タウリ・コープスがミレニアム開発目標(MDG)に対し国連先住民族問題常設フォーラム(PFII)の場で批判をした自国(フィリピン)あるいは他国政府、国際機関の評価、反論はどうか? A:  ビクトリアさんはPFIIでは議長として全体のとりまとめをしている。したがって、フィリピンの先住民族を代表するという立場ではなく、フィリピン政府に対しても特にその立場で反論していない。 全体的に、MDGがテーマのときに彼女が努力していたのは各国政府や国際機関の反応を引き出すこと。世銀、ADBやベトナム政府など、自らの機関が先住民族に対してどのような施策をとっているのか発言したところも多く、一定の成果が得られると思う。 MDGに対する先住民族側の反応はさまざま。目標自体は受け入れやすいものも多いが、アプローチは問題。先住民族の伝統的なコミュニティのあり方を考慮していないものが多い。たとえば、保健センターを設立するが、先住民族の村からは遠かったり、違うコミュニティ出身者が医療従事者として常駐するなど。先住民族の中には伝統的な治療者がいる場合も多いので、そういった伝統を活用するためにMDGを使えないのか、という声も上がっている。 インドで見た事例では、MDGのゴール2「初等教育の完全普及の達成」のために世銀が当初融資したプロジェクトで、すべての地域に学校を設立する、という試みがあった。今まで学校が無かった地域に教育センターがたてられたのはいいことだが、はじめの1、2年は給食を食べに来るものの、結局 3、4年目になるとこなくなってしまう。わたしが見た地域の一つは茶園労働者のためのものだったが、彼・女らは結局、大人になったときに茶園で働く以外の道を見つけることが難しく、そのため教育にも熱心になれない。社会構造を変革しないまま、学校だけ建てても限界があるようだ。 初等教育の達成や乳幼児死亡率の削減等は、良いと考えられるが、困るのはダム建設のような大規模開発や鉱山開発、環境、森林を破壊するエコツーリズムの促進等、先住民族を追い出すような開発。安全な水の供給と称し、企業が入り込み、後に利用料をとるのも問題。先住民族にとり、貧困をどう捉えるか、その視点が重要。 A: 2004年10月に、「ミレニアム開発目標と先住民族」というセミナーがスペインで開催された。その時のジョージー・カリーニョのペーパーには、ワークショップが開かれ貧困の定義や指標の作成について成果があった、と書かれているがその報告書は出ていないようだ。 Q: MDGの理念、目標、内容そのものを先住民族がどう評価しているのか?意見の多様性はあると思うが、問題ありと批判しているのか? A: 先住民族からの一つのまとまった批評は無い。ビクトリアさんとしては、常設フォーラム議長なので微妙な立場にある。去年の常設フォーラムに提出された資料では、先住民族にとっては、歴史的、構造的な問題が背景にあり、MDGを体系的に変え、開発目標を自分たちで再定義しなければならない、と考えていることは明白。 Q: ビクトリアさんは、今までのMDGにおける貧困の捉え方が対症療法的で根本的な問題が先送りとなっており、緊急避難的には良いとしても、貧困問題に対しより本質的に対応しなければならない、と提案しているのではないか? Q: ビクトリアさんの「先住民族とミレニアム開発目標(MDG)」の、MDG目標1に関する提言の中に、先住民族の開発パラダイムに関する先住民族自身の観点と勧告を発展させることで、1)民族的発展(Ethnic development)、2)いのちのプロジェクト(Life-project)3)アイデンティティを伴う開発(Identity development)の3点を挙げているが、これはビクトリアさんが言っていることか? A: 先住民族の持っている伝統的医療のあり方等、様々なものが開発により切り崩され、破壊されてきた。近代社会の行ってきたこれまでの開発のビジョンに対し、ビクトリアさんは、新たなビジョンを打ち出したいのではないか? A: 先住民族がこれまでに持ってきた固有の社会や文化、制度、組織のあり方、あるいは自分たちの物の考え方を自ら意識し、決定する、という開発のあり方をビクトリアさんは言っている。 A: 乳幼児死亡率の削減に関連し、州政府が建設した保健センターは、コミュニティから遠く、先住民族の伝統的助産師らが通えない場合がある。 Q: MDGをどう評価するか?MDGの項目だけは作ったが、先住民族の中でもMDGに対する意見が分かれているのではないか?穿った見方をするなら、MDGの指標は、開発途上国の人々が困る、先住民族が取り残されるような指標ではないか?現に存在する地域性や歴史性の議論をさせないように、普遍的な指標を設定している。その意味で「良くできている」。 A: 国連でMDGの数値目標が設定された背景には、公的資金、ODAの目覚しい成果がない、との文句が出始めた事が上げられる。 Q: 国連の10年、1990〜2000年頃にODAの成果が余りないことから目をそらせるために設定したのではないか?数値目標が、むしろ後退しているものもある。 Q: MDGに対して、発言できる人とそうでない者がいることから、先住民族の間でも格差があるのではないか?ビクトリアさんの意見は、先住民族全員の意見を代表しているのか? A: ビクトリアさんは、先住民族自らが、先住民族の望む開発が必要だ、という原則を確立しなければいけない、と主張している。PFII議長の立場で話している点は考慮しなければならない。先住民族の中で、フィリピン、インドのように英語が理解でき、先住民族の権利について国際的な流れを理解でき、MDGについて話せる先住民族がどれだけいるか?コミュニティベースでも格差ができている。ビクトリアさんは、エリートで先住民族全員を代表している訳でもなく、矛盾が無い訳ではない。 ただし、先住民族のコミュニティ内にある「開発」に対するさまざまな考え方を紹介し、先住民族自身が「開発」を定義する自己決定権こそが重要だという原則的主張を続けている。 Q: 先住民族コミュニティでの自己決定の仕方は米国のホピではどうか? A: 1930年代に各々のグループが自ら問題を解決できるよう、米国政府によりグループが作られた。政府からの補助金はグループの作った組織を通さなければもらえない仕組みとなっている。グループの意思決定は、年長者の集まりで決定される。議員は伝統的な文化に則り、選挙により決める。 A: MDGの危険性は、設定された数値を達成したらハッピーになる、という思想だ。国連レベルで起きていることだが、数字を示すことで逆に政府に利用されやすい。 A: 先住民族にとり、開発における自決権を認めることが最も重要な点。国によりかなり違うが、MDGにより先住民族がどうなっているか、データを集めることは重要とビクトリアさんは話している。フィリピンで行われたアジア先住民族女性会議では、先住民族が具体的に開発政策にどう関わって行くのか議論し始めていた。 Q: MDGは資金を集めれば達成できるのか?NGO内部で話し合ったが、MDGは重要だ、と言う反論もあった。ビクトリアさんの議論は、国連ではどう結実していくのか?MDGを全面的にサポートはしないが、国連という枠組みではある国が他国に対し文句を言える点は良い。重要なことは、現場でMDGのとりくみがどう行われるのか、という点。