『先住民族の10年News』第117号(2005年9月10日) 第4会期国連先住民族問題に関する常設フォーラム参加報告 木村真希子  2005年5月16日〜27日までの2週間、ニューヨークの国連本部で、第4会期先住民族問 題に関する常設フォーラム(通称:パーマネントフォーラム)が開催されました。わたし は1週目の金曜日、5月21日から最終日までの後半部分に参加してきました。今年は 「第2次世界の先住民の国際10年」のはじまりの年であり、また主要テーマが「ミレニ アム開発目標」だったため、最近の国連における情勢が反映されたフォーラムだった と思います。以下、フォーラムの内容を報告します。 ●今年の特別テーマ:ミレニアム開発目標  常設フォーラムでは2003年の第2会期以降、特別テーマを決めてその問題を中心的に 扱っています。今年のテーマは2000年9月に国連ミレニアム・サミットで採択されたミ レニアム宣言(注1)に基づくミレニアム開発目標でした。ミレニアム開発目標は全部 で8つ(注2)ありますが、今年のフォーラムではそのうちの2つ、?絶対的貧困の解消 と?普遍的初等教育の達成を扱い、10日間のうち4日間がこの議題の審議に費やされま した。テーマの性質上、東南アジアや南アジア、ラテンアメリカ、アフリカなどの途 上国の先住民族からの発言が多く見られました。先進国の先住民族はいくら主流民族 に比べて相対的に貧困にあり、教育水準が低いとはいっても、途上国と比べれば相対 的に豊かであり、日本のアイヌや沖縄の課題をこのテーマに関係づけて議論するのは 非常に困難なのではないかと危惧していました。しかし、ミレニアム開発目標に対す る批判的な見解は先進国だけでなく、途上国の先住民族にも共有のものでした。  ミレニアム開発目標の推進を担当する国連開発計画(UNDP)は、すべての目標に数値 を掲げて2015年までに達成するという手法をとっています。しかし、貧困や教育、ジェ ンダー、疾病、環境、開発といった問題を個別に扱い、個々の数値を達成するという やり方では、先住民族の直面する構造的な不平等を背景にした問題の存在自体がかえっ て見えにくくなってしまいます。この点に関し、フォーラムの委員会は以下のような 見解を述べました。「先住民族の直面する構造的不平等がなくならない限り、単にこ れらの数字を達成することは、先住民族がより土地権や資源権を収奪され、文化を喪 失することにつながる」。そして、ミレニアム開発目標における先住民族問題の主流 化の必要性を国連機関や各国政府に対して強調しました。 ●その他の議題  常設フォーラムでは、主要テーマのほか、人権状況一般やデータ収集、第2回・第3 回のテーマ(女性と子ども)に関するフォローアップなどの議題についても議論されま す。今年はこれらの議題について2日間、議論が交わされました。市民外交センターは、 人権の議題の中で、北海道ウタリ協会と共同声明で、アイヌの現状について報告しま した。人権のテーマでは何について議論してもいいのですが、やはり今年のテーマと 関連させた方がいいだろうということで北海道ウタリ協会の阿部ユポさんと相談しま した。その結果、「豊かな国の貧しい先住民族」という問題を、アイヌ民族の経験と 現状に関連づけて述べ、ミレニアム開発目標のような数値を達成しても、先住民族問 題は解決されないということを強調しました。また同時に、先住民族の包括的な権利 の促進と国家レベルの監視機関の必要性を強調する内容にしました。 ●第2次世界の先住民の国際10年  常設フォーラムの正式な議題とはなりませんでしたが、今年の1月から始まった 「第2次世界の先住民の国際10年」(以下、「第2次10年」、1994年12月から2004年12月 までを「第1次10年」と略す)についても、議場以外の場所(サイド・イベントや非公式 のミーティング)で話題になり、声明が発表され、議場でもコメントが述べられていま した。  第2次10年は国連人権高等弁務官に事務局が置かれた第1次10年と異なり、経済・社 会問題担当の事務次長が調官として任命されました。第2次10年の調整官であるホセ・ アントニオ・オカンポ氏は、常設フォーラムにおいて発言し、第1次10年の成果が必ず しも満足いくものではなかったことを指摘し、包括的な行動計画が必要であると述べ ました。  また、先住民族コーカスの声明では、常設フォーラムや、先住民族問題に関する特 別報告官の設置が第1次10年の主な成果として評価されました。同時に、先住民族の権 利宣言(以下、宣言)を採択できなかったこと、また国際レベルでの機関や基準の設定 が進んだ割には、国家政府の積極的な参加が得られなかったことが問題とされました。 第2次10年の目標としては、宣言案の早期の可決はもちろんのこと、国家政府による積 極的な第2次10年への貢献と参加、および国家レベルの監視装置の必要性が強調されま した。そのほか、第2次10年の基金収集のため、国連での先住民族大使の設置が要請さ れました。 ●来年の主要テーマ:残りのミレニアム開発目標と、その再定義  常設フォーラムの後半2日間で、来年のフォーラムの特別テーマが発表になりました。 ミレニアム開発目標の残りすべてと、目標の再定義です。このテーマ設定には、今年 のように個別の目標について議論するのではなく、むしろ先住民族の権利という視点 から見てミレニアム開発目標を評価し、再定義に取り組むという意味合いが込められ ています。  今回の常設フォーラムを見ていると、先住民族側はミレニアム開発目標に対して2つ の戦略をとっているように見えます。ひとつは、ミレニアム開発目標の前提や、問題 設定自体を疑問視し、開発が先住民族に与える影響について議論すること。もうひと つは、前述のような問題を認めつつも、ミレニアム開発目標の中でも先住民族問題を 中心的に扱うよう、積極的に提言していくこと。現在のように、必ずしも国際的な情 勢が人権や先住民族の権利の促進にとってふさわしい環境ではないときには、後者の ように既存の制度や目標を使って少しでも状況を改善していくための戦略も重要になっ てきています。この点で、フォーラムは国際機関に対して先住民族問題を考慮するよ う、積極的に働きかけ、ある程度の成功を収めてきたといえるでしょう。 ●おわりに  最後に、常設フォーラム全体についての感想です。今までにも言われてきましたが、 常設フォーラムは国連機関への提言という色彩が強く、加盟国政府に対する勧告は少 なく、また加盟国政府の積極的な参加も見られません。常設フォーラムの設置自体は 喜ばしいことですが、今後もさまざまな点を改善し、また宣言の制定を実現させなけ れば、第2次10年における先住民族の権利確立は第1次10年よりも厳しい状況にあると いわざるをえないでしょう。  国際的な枠組みの限界がある以上、加盟国政府の積極的な参加を促すためには、国 内における世論の喚起や草の根のレベルの運動が不可欠です。第2次10年の開始を機に、 もう一度国内における先住民族問題に関するNGOや先住民族組織のネットワークを強化 し、政府に対して提言を行うと同時に市民社会に向けてもアピールする必要があると いえるでしょう。  残念ながら、第2次10年の開始は日本国内でも国際的にも、あまり注目されませんで した。しかし、今年の国連総会では第2次10年の行動計画が採択される予定であり、そ れにともなって2006年の第5会期常設フォーラムでは第2次10年の開始を記念するイベ ントが行われる予定です。日本政府に対して第2次10年への積極的参加を呼びかけると 同時に、日本の先住民族団体とNGO自身も、第1次10年の成果を振り返り、「次の10年 で何が達成されるべきか」を改めて考え、まとめる必要があるのではないでしょうか。 (注1)ミレニアム宣言は、平和と安全、開発と貧困、環境、人権とグッド・ガバナン ス(良い統治)、アフリカの特別なニーズなどを課題として掲げ、21世紀の国連の役割 に関する明確な方向性を提示。そして、国連ミレニアム宣言と1990年代に開催された 主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、ひとつの共通の枠組 みとしてまとめられたものがミレニアム開発目標(Millennium Development Goals : MDGs)である。(http://www.undp.or.jp/mdg/#03) (注2)極度の貧困と飢餓の撲滅、?普遍的初等教育の達成、?ジェンダーの平等の推進 と女性の地位向上、?幼児死亡率の削減、?妊産婦の健康の改善、?HIV/エイズ、マラリ ア、その他の疾病の蔓延防止、?環境の持続可能性の確保、?開発のためのグローバル・ パートナーシップの推進。