2008年10月にスイス・ジュネーブで行なわれた、国連の自由権規約委員会による第5回日本報告書審査を経た総括所見(Concluding Observations、文書番号:CCPR/C/JPN/CO/5)が、ジュネーブ時間10月30日に発表されました。
同文書は、国連人権高等弁務官事務所ウェブサイト内(英文、外部リンク)でご覧になれます。
今回の日本報告書審査における議論のなかで、人種差別、マイノリティの問題に関しては、比較的重点の薄い審議となった側面がありますが、前向きな要素として、沖縄人の先住民族としての権利、在日無年金問題など、これまでに自由権規約委員会が取り上げてこなかったマイノリティ集団や差別の問題が総括所見において取り上げられています。
また、とくに、今回の審査では、「狭山事件」において犯人とされ無実の罪を着せられた石川一雄さんが、ジュネーブにわたって審査に参加し、部落差別、また日本の刑事司法制度の欠陥による人権侵害の被害者として、裁判における「証拠開示」問題に関するロビイングを行ないました。取り調べに関する勧告の中で、被疑者に保障されるべき権利として「警察の持つすべての記録へのアクセス」が挙げられているのは、その成果と考えられます。
反面、1998年の前回審査を経た総括所見や、今回の審査に先立つ委員会からの「質問リスト」、また今回の審議自体のなかで言及されながら、総括所見に盛り込まれなかったいくつかの重要な問題も存在します。
例:
・被差別部落の人びとに対する差別、その人権状況
前回審査で「(教育、収入および効果的救済の制度に関する)差別をなくすよう措置をとる」よう勧告がなされ(第4回日本報告書審査・最終所見第15段落)、また今回の審議の中でも言及がなされながら(部落差別、個人情報の悪用による差別の存在に懸念を示し、これを是正する政府の責任を指摘)、その勧告の履行状況を委員会が十分に追い、総括所見の形で提示できていない。
・差別禁止法の制定
今回の審査に先立って提示された委員会からの「質問リスト」で履行状況に関する質問項目として取り上げられている。日本政府は、質問リストへの回答でも「現行の法制度上で対処できる」との立場を崩しておらず、これまで複数の国連人権機関を通じ提示されてきた勧告を履行する意志を示していない。
委員会は、総括所見第6段落において、日本政府が過去の勧告の多くを履行していないことに懸念を表明し、「委員会の過去の審査による勧告も、今回のものと同じく有効とするべきである」と明記しています。日本政府には、今回新しく提起された勧告とともに、前回の審査で勧告されながらいまだに履行していない事項をも、再度重く受け止め、履行に努めることが求められます。
◆総括所見に記載された差別・マイノリティ関連の内容(抜粋概略・詳しい文面は原文を参照)
第6段落:これまでの多くの勧告が履行されていないことから、自由権規約委員会の過去の審査による勧告も、今回のものと同じく有効とするべきであると指摘
第9段落:パリ原則に基づく、政府から独立した国内人権機関の設置を勧告
第18段落:被疑者が、他の権利の保障とならび、自らの事件に関し警察のもつすべての記録へのアクセスが保証されるべきと言及
第22段落:日本軍「慰安婦」問題に関する法的責任を認め、謝罪と補償、教育を行なうことを勧告
第23段落:人身売買の被害者保護をより充実させ、被害者の数に関するデータを収集することを勧告
第24段落:外国人研修生の就労条件に関し、国内の労働法の対象とし、また搾取した企業にペナルティーを科すことを勧告
第25段落:難民申請者への対応を改善し、政府から独立した不服申し立て機関を設置することなどを勧告
第26段落:婚外子に対する差別的法制度を撤廃することを勧告
第27段落:性的指向を法律上の差別禁止の対象に入れること、同性カップルに異性カップルと同じ権利を認めることを勧告
第30段落:1982年の国民年金からの国籍条項撤回に遡及性がなかったために外国籍住民、とくに在日コリアン1世が多く無年金状態になっていること、同様に在日コリアンの障害者が無年金状態になっていることに留意し、外国籍住民が国民年金から差別的に排除されないよう経過的措置を講じることを勧告
第31段落:朝鮮学校に対する平等な扱い(補助金、寄付への課税、卒業生の大学入学資格の直接的認定)を勧告
第32段落:アイヌ民族、沖縄人を、特別な権利と保護を受けるべき先住民族であると認めていないことを懸念し、文化保護策を促進し土地権を認識すること、子どもが自分たちの文化・言語・歴史に関する教育を受けられるようにすることを勧告。