2009年2月17日
内閣総理大臣 麻生 太郎 様
外務大臣 中曽根 弘文 様
日本政府代表(スリランカ平和構築及び復旧・復興担当) 明石 康 様
スリランカ内戦の現状を憂慮し、日本政府の断固たる対応を求める公開書簡
拝 啓
マイノリティの平等と尊厳を掲げる国際人権団体である反差別国際運動(IMADR)は、その主要な拠点の1つであるスリランカにおいて、紛争の平和的解決と人権確立をめざして活動しています。IMADRの日本での拠点である私たち反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)は、スリランカにおける内戦の現状を憂慮するとともに、スリランカへの屈指の援助国であり「スリランカ復興開発に関する東京会議」の共同議長国でもある日本政府に対し、解決のため一層ご尽力いただけるよう、要請するものです。
弾圧されるジャーナリスト、人権活動家、平和運動家たち
私たちは、スリランカで繰り広げられている悲劇に対し深い憂慮を表します。報道関係者が紛争の取材を目的とした移動を規制されているため、現場で何が起きているのか解明できていません。紛争についてとりあげたり、国や国防当局の仕業を勇気をもって明るみに出そうとしたスリランカの多くのジャーナリストが、国外逃亡するか、武装集団に殺害されました。今日まで、スリランカ政府はその犯人を見つけ出せていません。当局の意向に背いたメディアは攻撃され損害を被っています。失踪や超法規的殺害、暴力に敢然と立ち向かった人権活動家たちは、誹謗中傷され名誉を傷つけられています。平和運動家たちは「裏切り者」と罵られ、名前をウェブサイトで公開され、殺害の危険にさらされています。スリランカには1980年代の末、ファシスト的なシンハラ愛国主義勢力によって何千人もの人びとが殺された忌まわしい過去がありますが、この2年間、かつてのように市民運動家が侮辱や中傷を受け、生命・身体の安全が脅かされる状況が続いています。
2009年2月1日、スリランカのゴタバヤ・ラジャパクサ国防大臣は、さらに踏み込んで、ドイツとスイスの大使、国際NGO、そしてCNN・アルジャジーラ・BBCといったメディアを締め出すと警告しました。
保護責任
現在、約25万人の一般市民が紛争地帯に閉じ込められています。食糧は届かず、基礎的な医療設備もありません。ムライティヴの現状については赤十字国際委員会からいくつか報告が出されていますが、この地域にある病院がクラスター爆弾の攻撃を受け、一般市民や患者、数百人が死亡したとの情報は衝撃的でした。あらゆる戦時法規・国際人道法が意図的に踏みにじられています。そして、このような性質の紛争にありがちなことですが、そうした規範を無視できるかのような状況が双方の紛争当事者によって作り出されています。
私たちは、「LTTE領域から撤退しない者を『LTTEの一味』とみなす」との国防次官の発表に危機感を募らせています。これは、無実の一般市民がスリランカ政府の無差別爆撃から逃れられない事態を招いてしまっています。
スリランカ政府がこのような形で一般市民を守れない旨の宣言を行なったのに先立ち、マヒンダ・ラジャパクサ大統領は2009年1月29日、一般市民が「安全地帯」へと移動できるように48時間の停戦を言い渡しました(i)。同じ日にナバネテン・ピライ国連人権高等弁務官が述べたところによれば、人びとは逃げることを阻止されただけではなく、特別な施設に恣意的に拘禁されているとのことです(ii)。さらに、いわゆる「安全地帯」がどこなのか、とらわれの身となっている一般市民に知られていないどころか、紛争当事者間での合意すらなされていないとのことです(iii)。多くの人びとが「安全地帯」と呼ばれる場所への退避中に家族を失っていると報道されています。
一般市民の安全確保・保障を拒むスリランカ政府のこのような姿勢は、2005年の世界サミット成果文書において各国の元首および政府が合意した「保護責任」(R2P)の不履行に当たります。同成果文書は国連総会が採択し安全保障理事会も承認していますが、「保護責任」に関する第38段落には次のように述べられています。「各々の国家は、大量殺戮、戦争犯罪、民族浄化及び人道に対する犯罪からその国の人々を保護する責任を負う。この責任は、適切かつ必要な手段を通じ、扇動を含むこのような犯罪を予防することを伴う。我々は、この責任を受け入れ、それに則って行動する」(日本政府仮訳)。
東京会議・共同議長国の怠慢
スリランカ復興開発に関する東京会議の共同議長国(ノルウェー、日本、米国、欧州連合)が2009年2月3日付けで発表した声明は、現実の厳しさを反映しない認識に基づいていると言わざるを得ません。声明には、現場で起きている事態が十分に踏まえられておらず、戦時法規の尊重の必要性については沈黙しています。 残念ながら、共同議長国は相変わらずスリランカのインフラ整備を重視し、人権の保護への関心や、戦争努力にのみ力点を置く態度を改めるようスリランカ政府に促すといった点が不十分です。
第2に、共同議長国声明は、戦闘による一般市民の犠牲の規模について何も触れていません。スリランカ政府は「民間人の犠牲者ゼロ」政策を掲げましたが、他方、赤十字国際委員会は2009年1月27日、「スリランカ北部のヴァンニ地域では何百人もが死亡し、人員も設備も不十分な医療施設に多数の負傷者があふれかえっている」と述べています(iv)。このようにスリランカ政府軍とLTTEの双方による戦時法規・国際人道法への重大な違反が起きているのに、それが報道されていません。それはとりもなおさず、紛争報道が禁止されているからに他なりません。
第3に、共同議長国声明はスリランカ政府とLTTEの双方に対し、ジュネーブ条約、国際刑事裁判所ローマ規程をはじめとする戦時法規を最大限尊重するよう求めることをしていません。
「LTTEが北部の全域における支配を失うまでに残された時間はわずかである」との共同議長国声明の見解に異存はありませんが、声明は、それに伴なう代償として、ムライティヴに取り残された25万人を超える一般市民の生命が危険にさらされているという事実を見過ごしています。現在、一方ではLTTEが一般市民の移動の自由を認めることを拒否し、他方ではスリランカ政府がLTTE支配領域内の一般市民に猛攻撃をかけているのです。後者の一例が、2009年2月4日のプドゥックディイルップ市民病院など病院を対象にした爆撃です。
提言
日本政府は、他の共同議長国ならびに国連との協力のもと、次の方策をとられるよう、要請します。
・無期限の停戦を宣言するようスリランカ政府とLTTEを仲介するとともに、赤十字国際委員会の先導のもと、一般市民が安全地帯へと移動できるようにすること。
・市民がより安全な場所へと移動できるよう対話を促進するため、国連事務総長に特別代表を派遣するよう働きかけること。
・スリランカ政府に対し、戦争報道を解禁するよう、また、ジャーナリストの殺害や攻撃の加害者を訴追するよう、促すこと。
・紛争の「政治的解決への合意に向けた包括的な対話」を実現する道筋を明らかにし、国連機関、赤十字国際委員会、人道支援団体が国内避難民に無制限に接触できるよう、両紛争当事者に働きかけること。
・インドがスリランカに単独で働きかける姿勢を改め共同議長国体制に協力するよう説得し、インドを共同議長国の一員として迎え入れること。
・スリランカの人道的危機について議論する国連人権理事会の特別会期の開催に向けた方途を講じること。また、スリランカ政府軍とLTTEの双方による戦時法規・国際人道法違反を調査するハイレベル調査団の派遣の実現に向け、必要な働きかけを行なうこと。そこには、現地指揮官責任の追及や、人権侵害を監視するための国連人権高等弁務官事務所の現地調査団の設置も含まれる。
敬 具
反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)理事長 武者小路公秀
i) Sri Lanka gives Tamil Tigers 48 hours to allow civilians through jungle, Times Online (2009年1月30日付)(外部リンク)
ii) Sri Lanka: Pillay deplores deteriorating situation for civilians, Office of the High Commissioner for Human Rights (2009年1月29日)(外部リンク)
iii) Civilian exodus still a trickle, The Hindu(2009年2月1日付)
iv) Sri Lanka: Major humanitarian crisis unfolding, ICRC(2009年1月27日)(外部リンク)
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