新ネパールにおける包括的な民主主義の創造とダリット

ドゥルガ・ソブ(FEDO議長)

2007年3月にチェンナイにおいて開かれたIMADR総会にて、IMADRは、フェミニストダリット組織(FEDO)を新たに会員とし、その議長であるドゥルガ・ソブさんを新理事に迎えました。同日に開かれた「アジアにおけるカーストと門地に基づいた差別と闘う」と題する記念シンポジウムにおいて、ソブ議長は、新ネパールにおけるダリット、特にダリット女性の状況を報告されました。

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新たな地図に描かれたネパール

ネパールは、現在、「新ネパール」への転換期にある。今では「第2次革命」として知られる、2006年4月の民衆革命は、平和と繁栄を享受する21世紀の主権国家に向けて政治・経済・社会が抜本的に転換することへの新たな希望をもたらした。女性とダリットを含む被差別集団にとって、歴史的象徴となった第2次革命は、数世紀にもおよぶジェンダー、カースト・民族、そして文化に基づく差別を打ち壊す道を大きく拓いた。しかし、第2次革命はいまだ結実を得ていない。多くの期待の中で、ネパールのダリットにとっての主要な期待の1つは、男女ともに「他の市民と等しく尊厳ある生活を送り、苦痛から自由になること」である。

社会的なタブーの中のダリット

ネパールは自然、文化、言語と社会慣習においては多様な国ではあるが、一部の特権階級とカーストによって支配されてきた。階層的なヒンズーのカースト制度において最下層に属するダリットは、ネパールの総人口の約15%を占めているにもかかわらず、支配エリートとなる機会を決して持つことはなかった。

南アジアでは稀なことではないが、現存するカーストは宗教的指導者や地域のリーダーがかつて行なった職業集団の分類に基づいている。そうした分類は元来、社会におけるすべての役割が必ず誰かに帰属し、共同体が適切に機能するようにと形作られたものであった。そののち、宗教指導者、ついで政治家らは、カーストに社会的・文化的価値を付与し、様ざまな集団に対する差別的なレッテルをますます作り出すようになった。1854年のムルキ・アイン(市民権法)はネパールにおけるカースト制度を公式に文書化し、「合法化」した。

残念なことに、ネパールにおけるほとんどのヒンズー教徒は、カースト制度の基盤は宗教的なものであり、保存されなければいけないといまだに信じている。1964年の市民権法はカーストに基づいた差別を違法としたが、現憲法はこの点についていまだ不明瞭であり、実際、宗教的慣習への不介入という楯のもと、差別行為の継続を許す条項を有している。ここでいう宗教的慣習には当然、ダリットに寺院その他公共の場所への立ち入りを禁止するといった差別行為も含まれている。 

ダリットたちは皆、不浄民もしくは不可触民とされ、社会、文化、政治、経済、教育、保健、宗教、とあらゆる領域において差別と不利益を被っている。それらは彼・彼女らの生活のすべての側面に影響し、生計維持、教育機会および教育的達成、そして社会的・政治的統合への彼・彼女らの権利は認められていない。新ネパールにおいて、すべてのダリットは従来の社会的タブーから自由となることを望んでいる。

政治はいまだにダリットの問題に手をつけず

政治分野への参加に関して言えば、ダリットは、国会議員をはじめ力と権威のある地位に、自分たちの代表をごくわずかしか就かせることができていない。事実、複数政党制民主主義の全期間を通じて、ただ1人のダリットの議員がいたのみであり、また、ダリットの候補者(ごくわずかであったが)の95%以上は無所属として立候補しなければならなかった。なぜなら、彼女・彼らは、どの政党からも推薦されなかったためだ。形ばかりの代表選出が政党によってなされることもあったが、ダリットたちの政治的生活への根本的な影響力を及ぼすまでには至らなかった。

2006年4月の民衆運動が功を奏して、王制の効果的な終焉がもたらされた。立法府は「不可触性から解放された国家」に向けた提言を可決した。同様に、各政党は完全な民主主義への合意を形成し始めた。これらの約束事にもかかわらず、政党と政府がなすべきことはまだ多く残されている。

「包括的な平和協定」は上記の合意事項が形になったものである。この協定はまた、「あらゆる形態の差別を終わらせることにより、国家を包括的な民主的機構へと全面的に国家機構を再編するための措置に着手する」(2006年11月8日付「ネパール主要7政党(SPA)と毛沢東派による決定事項」の本文より引用)と言明した。さらには、「機構再編に向けた提案を行なう」ためのハイレベルの委員会を設立することや、憲法制定議会が国家機構再編に向けた最終決定を発表することが述べられている。このような取り決めとは裏腹に、各政党を通じて見た現実は全く異なっている。各政党は、あらゆるカーストや宗教が積極的に自らの代表を送り込むことを促進するはずであったにもかかわらず、ダリットに対し、きわめて名目的な代表権しか与えなかった。

一時的なものではあるが、暫定憲法もまた、ダリットの問題を大きく取り上げることができていない。1990年のネパール王国憲法には、平等への権利および不可触性に反対することへの権利に関する似たような条項がある。不可触性に反対する権利や社会正義を求める権利などいくつかの条項を除き、暫定憲法はほとんどの側面においてとても保守的に映る。

暫定憲法に対してダリットが期待するのは、新憲法を打ち立てるために、質と量の両方の点からダリットの代表が憲法制定議会にいるという状態を作り出すことである。 しかし、暫定憲法はきわめて保守的で不透明に見える。

ダリットは憲法制定会議のプロセスから無視されている

そもそも、民衆運動の背後には2つの目的があった。1つは憲法制定会議の選挙を行なうことであり、他の1つは王政を打倒することである。すでに、これらの目的に沿って暫定憲法が発布されている。しかし、政治的な根回しの不足、選挙委員会の偏った構成、そして、事務的な段取りの悪さのため、その実施は疑問視されている。

ネパール国民は、国の運命を決定づけることになる憲法制定議会の構成が確実に包括的なものとなるよう期待している。国づくりに際して自らの意見を表明するのは、すべての人の権利である。ダリットたちが長い間排除され、しかも現人口のかなり大きな部分を占めているため、この権利を実現するためには、彼女・彼らの代表が質・量の両面で憲法制定議会に存在することが必要となる。

しかし、ダリットのこの仕組みへの真の参加を促そうという政党間の合意は、期待を大きく裏切っている。暫定憲法においては、ダリットの参加を確実にしうる強力で明確な条項は一切ない。ただ、ダリットなどいくつかの集団を憲法制定議会に参加させるという条項があるのみである。しかし、暫定憲法には、そのような包括性を具体化する規定はない。

結論と提言

これまでのネパールの憲法制定過程におけるダリットと女性のプレゼンスの不足は、憲法の多くの抜け穴と差別的条項の理由となっていた。我々の過去の悲しい経験が示しているのは、主たる受益者が政策立案過程に関与しないときには、彼・彼女らの問題や懸案が解決される可能性は保証されないということである。ダリット女性たちを国の社会経済的・政治的過程の主流へと組み入れ、ダリット女性の権利、平等な代表権、尊厳、そして自由を保障し、同時に現在の紛争を政治的に安定した状態へと変えるためには、包括的な民主主義を打ち立て国家機構を改革することが必須であり緊急である。

ネパールの平和構築プロセスには、異なった社会階層のすべての集団が真に参加し、その代表がいなければならない。そうでないと、和平プロセスにおいて成果を上げようとする試みが本心からなされたとは言い得ないだろう。政治的交渉だけでは十分でなく、むしろ、ダリットの声と重要課題が、すべてのプロセスにおいてより強く反映されなければいけないのだ。そのため、以下のことを提言したい。
 
ネパール政府は以下のことをするべきである:
1. 憲法制定会議にダリットの代表が、人口の割合に応じた比率で確実に参加すること。
2. ネパールにおけるすべての平和構築プロセスにおけるダリットの参加を確保すること。
3. 公的・私的すべてのレベルと形態の不可触性を根絶する法律を施行し、法の実効的な実施を確保すること。
4. 市民権、土地権、そしてすべての公共の場所の使用の自由を保障すること。
5. カースト、紛争、カースト間結婚と伝統的職業からの強制退去により引き起こされた、ダリットの国内避難民の問題を解決すること。
6. カーストおよびあらゆる形態の差別を根絶するための国内的・国際的政策や協定・条約を監督・指導するシステムと機関を設置すること。
7. 特に地方において、ダリット女性や他の周縁化された女性のための有権者教育プログラムを確立し、彼女たちが現在の政治の仕組みを理解するとともに、自分たちが投票者としても候補者としても選挙に参加することが重要だと認識できるようにする。
8. 行政、立法、司法のすべてのレベルを含むあらゆる公的機関に、ダリットとダリットの女性がその割合に応じて公正な形で参画することを保障すること。
9. 警察、国家と法務省によりダリットに対しなされている人権侵害への刑事免責をなくすこと。
 
国際社会は以下のことをするべきである:
1. 国際機関はネパール政府とのあらゆる接触の機会に、ネパールにおいて、ダリット、女性、先住民族、マデシをはじめとするマイノリティ集団の参加のもとで包括的な民主主義が実現するよう要請すること。
2. 政府の施策が効果的にダリットとダリット女性を利するようにすること。ダリット女性の問題が考慮されていない場合においては、彼女たちのための別個のプログラムが実施されなければならない。
3. 幹部を含めた国際機関スタッフの職に、より多くのダリットとダリット女性が就くようにすること。
4. ネパールにある国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の現地事務所に差別撤廃のための特別な部署を設け、ダリットのスタッフが必ずいるようにすること。
5. 人種差別撤廃委員会(CERD)の一般的勧告29および最終所見の実施に際して、ダリットの声、特にOHCHRネパール現地事務所の意見に耳を傾けること。


(原文英語、翻訳協力:慎 泰俊)

2007年12月05日

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